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徳島地方裁判所 昭和46年(行ウ)9号 判決 1975年3月18日

原告 井上直 外四名

被告 徳島県

主文

一  被告は、原告井上直に対し金二三一七円、同岩崎繁に対し金一七〇四円、同北川歳市に対し金四三三七円、同高田宏に対し金四七〇八円及び同西木秀治に対し金三八三一円並びにこれらに対しいずれも昭和四六年一一月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告井上直に対し金五万二三一六円、同岩崎繁に対し金五万二九〇二円、同北川歳市に対し金五万七二七八円、同高田宏に対し金五万七九七六円、同西木秀治に対し金五万六四五〇円及び右各金員に対する昭和四六年一一月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第一項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、いずれも被告県の職員として雇用された地方公務員法(以下地公法という。)の適用を受けるいわゆる一般職の地方公務員であり、昭和四四年一一月当時、別紙(一)所属部署欄記載の各部署に勤務していた。

2  (給与等請求)

(一) 原告らは、被告に対し、別紙(一)年次休暇の届出日時欄記載の日に、所定の手続に従い同指定休暇日欄記載のとおり休暇日時を特定して、年次有給休暇権(以下年休権という)を行使したところ、原告らの任命権者(被告代表者県知事武市恭信)の委任を受けた各所属長は、いずれもこれを承認したので、右指定休暇日に原告らは就労しなかつた。

(二) ところが、被告県代表者武市恭信知事(以下県知事という。)は、右休暇日又はその日から数日の間に、原告らの各所属長に指示して、右休暇日の午前八時三〇分から午前九時一〇分までの部分について年次有給休暇(以下年次休暇という。)の承認を取消させ、右時間を欠勤として扱い、原告らの昭和四四年一二月分の給料及び同年一二月五日支払いの勤勉手当(以下あわせて給与等ともいう。)につき、別紙(一)給与カツト額欄記載のとおりの減額をして、これを支給した。なお、右勤勉手当は、原告らはいずれもその支給対象たる期間皆勤であつたから右欠勤扱いがなければ、被告の条例及び規則の定めるところにより手当額計算の基礎となる期間率を一〇〇分の一〇〇として算出されるべきところ、右欠勤扱いによつて期間率として一〇〇分の九〇が適用になりこれにもとづいて計算されたものであり、また計算のもう一つの基礎である成績率は任命権者が条例、規則に基づき既に決定している一〇〇分の六一・一九が一般職員と同様適用されたので、結局右減額は期間率の適用の差異により生じたものである。

(三) しかしながら、右の年次休暇承認の取消にもとづく欠勤扱い並びに給料及び勤勉手当の減額支給は、労働基準法(以下労基法という。)三九条に違反するものであるから、原告らは被告に対し、減額分の給与等支払請求権を有する。

3  (慰藉料請求)

(一) 被告県の職員団体である自治労徳島県職員労働組合(以下県職組という)は、昭和四四年度人事院勧告の完全実施を要求する全国統一行動の一環として、県庁(以下出先機関と対比させて本庁ということもある。)中庭において昭和四四年一一月一三日午前八時三〇分から一時間の職場集会を計画実施した(以下県庁でのこの争議行為を一一・一三ストという。)が、原告らは県職組の中心的幹部として右集会を成功させるため前記年次休暇を利用して右集会に参加した。県知事は、年次休暇を争議行為に利用することは許されないとして、本件休暇日のうち午前八時三〇分から午前九時一〇分までの部分につき承認の取消及び給与等減額の措置をとつたが、これらの措置は労基法三九条に反する違法なものであり、県知事は右違法を知り又は過失によつてこれを知らずに、右の各措置をとつたものである。しかして県知事は、地方公共団体の公権力の行使に当る公務員であり、右の各措置はその職務を行うについてなした違法行為であるから、国家賠償法一条一項により原告らが被つた損害を賠償すべき義務がある。

(二) 原告らは、右違法行為によつて、単に給料及び勤勉手当が減額されたにとどまらず、勤務成績評価の上で無断欠勤扱いにより将来いかなる不利益要素として扱われるかもわからないという不安感を覚えたが、それのみならず、原告らが県職組の幹部として一般組合員に年休権を行使しての組合活動への参加を働きかけても容易に応じないという事態を生じ、これらによつて原告らが被つた精神的苦痛は金銭に評価して各原告につきそれぞれ金五万円を下らない。

4  よつて、原告らは、被告に対し、給与等請求権にもとづき別紙(一)給与カツト額欄記載の減額された給料及び勤勉手当の支払及び国家賠償法一条一項による損害賠償請求権にもとづき各原告に対しそれぞれ慰藉料金五万円の支払並びに右各金員に対する弁済期後である昭和四六年一一月七日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  1項の事実は認める。

2  (一) 2項(一)の事実は認める。ただし各所属長の承認は、争議行為に参加したときは承認を取消すとの留保を付した承認である。

(二) 同項(二)の事実中、勤勉手当の減額があつたとの点を否認し、その余の事実は認める。勤勉手当は職員の勤務成績に応じて各人ごとに支給額が決定されるものであり、支給額の決定は任命権者の裁量行為であるところ、原告らに対する昭和四四年一二月五日支給の勤勉手当の金額は、原告らに同日支給された金額のとおり支給決定されているものであるから、何ら減額または控除はなされていない。

(三) 同項(三)は争う。

3  3項の事実中、県職組が原告ら主張の日時に職場集会を計画実施し、原告らがこれに参加したこと及び県知事が原告らの集会参加を理由に休暇承認の取消及び給料の減額の措置をとつたことは認めるが、その余は否認する。右各措置は後記のとおり年次休暇の性格及び給与条例に照らし正当な行為であるのみならず、次の理由からも国家賠償法に基づく原告らの請求は、不適法ないし失当である。すなわち

(一) 休暇承認の取消並びに給与等減額支給の措置は、原告らと被告との間の内部的な勤務関係の問題であるから、被告県が行政の主体として行政の相手方たる住民との間で問題となる「公権力の行使」に該らない。

(二) 仮に給料減額行為及び勤勉手当の決定行為が公権力の行使であるとすれば、その行為は地公法四九条に規定する「処分」に該当するから、原告らは同条の規定により人事委員会に対し不利益処分に関する不服申立をすべきである。ところで、右不服申立ては審査前置主義をとつており(同法五一条の二)、かつ六〇日の不服申立の期間が定められているところ(同法四九条の三)、本件では右期間内に不服申立ての手続がとられていないから、不適法な訴といわねばならない。

(三) また、右の各措置が公権力の行使とすれば、その公権力を行使した県知事を被告とすべきであつて、徳島県を被告とした本訴は相手方当事者を誤つた不適法な訴といわねばならない。

三  抗弁(本件年次休暇の取消及び給与等支給額の正当性)

1  本件年次休暇の承認からその取消に至る経緯

(一) (本件年次休暇の承認の経緯)

県職組は、昭和四四年度の公務員給与に関する人事院勧告の完全実施を要求する自治労全国統一行動の一環として、県庁中庭において昭和四四年一一月一三日始業時間である午前八時三〇分から一時間にわたる職場集会を開くことを計画し、原告らは右集会に参加するため、あらかじめその各所属長に対し同日の年次休暇を請求した。原告らの各所属長は、かねて争議行為のために年次休暇を請求しても承認しないことを明らかにしていたが、原告らの休暇利用目的が事前に明確になし得なかつたので、右職場集会に参加したときは事後に承認を取消すことを明示してこれを承認した。

(二) (原告らの本件年次休暇の利用とそれによる業務阻害)

県庁職員は、通常、午前七時三〇分ごろから登庁しはじめるが、原告らは、当日、午前六時五五分ごろから県庁各所に立看板やスピーカーを置くなど集会の準備をはじめ、午前七時一〇分ごろから支援の県評傘下の労働組合員とともに、県庁へ登庁する職員の入構を阻止するために坐り込みなどの方法でピケをはり、原告井上直は本館南中央出入口で、原告岩崎繁は本館西出入口で、原告北川歳市は別館東出入口で、原告高田宏は本館東出入口で、原告西木秀治は別館西出入口で、それぞれピケ要員の統括責任者としてピケを指揮するなど、年次休暇を争議行為に利用し、そのため県庁職員の入構が阻止され、ピケの解除された午前九時一〇分まで県庁全体の正常な業務の運営が阻害された。しかして原告ら所属の各出先機関は、いずれも独立の行政機関ではなく、本庁の各担当課の指揮監督を受けて業務を遂行しているものであるから、本庁事業の正常な運営の阻害は直ちに原告ら所属の各部署の事業の正常な運営を妨げたものないし妨げるおそれのあつたものである。なお原告井上直所属の中央病院では、一一・一三スト当日、同病院勤務の組合員約一〇〇名が右ストライキの一環として職場を放棄して病院業務を阻害し、原告井上直も中央病院でのストライキのために年次休暇を利用して職場放棄をしたのであるが、組合役職であつたことから、県庁の職場集会に参加し、ピケ要員となつたものである。

(三) (本件年次休暇の利用目的は争議行為参加のためであることについて)

原告らは前記のように本庁及び原告ら所属各部署の事業の正常な運営を妨げ、または妨げるおそれのあつた一一・一三ストに参加するために本件年次休暇の請求をなしたものである。また一一・一三ストの目的たる人事院勧告の完全実施要求は被告県に向けられたものであり、要求の貫徹を主張する組合は県を単位とする県職組であつて、県職組は被告県に対する要求の貫徹のため、被告県の業務の阻害を企図したもので、原告らはその要求行動に参加するために本件年次休暇の請求をなしたものであるから、その利用目的は争議行為参加のためであることは明らかである。

(四) (本件年次休暇の取消)

原告らの各所属長の本件年次休暇の承認は、前記のようにこれを利用して争議行為に参加したときは、事後に承認を取消すことを明示してなしたものであり、さらに後記の如く年次休暇を争議行為に利用する目的で請求することは年次休暇の性格から許されないから、被告は各所属長に指示して原告らが一一・一三ストに参加していることが判明したころ、すなわち原告北川を除くその余の原告については昭和四四年一一月一三日ごろ、原告北川については同日より二、三日の間に右承認を取消させ、右争議参加部分について年休権がそもそも成立していないことを確認したものである。

2  年次休暇の性格と本件年次休暇承認取消しの正当性

(一) (被告県の職員の年次休暇は任命権者の承認が必要であることについて)

地方公務員である被告県の職員の年次休暇は、条例及び規則の定めるところに従い任命権者の承認を得てはじめてその付与の効力を生ずるものである。

(1) 「職員の勤務時間、休日及び休暇に関する条例」(昭和四〇年徳島県条例第二〇号以下休暇条例と略称する。)六条二項四項、八条、「職員の勤務時間、休日及び休暇に関する規則」(昭和四〇年徳島県人事委員会規則七―一。以下休暇規則と略称する。)四条一項別表第一、五条一項によれば、被告県の職員が年次休暇を受けようとするときは、あらかじめ任命権者の承認を得なければならないことを定めている。

(2) 憲法、地公法は、地方公務員について一般民間労使関係と異なる種々の規整を置いていること、地方公務員の業務はその性質上正常な運営に支障を生ずれば公共の福祉に影響するところが大であること、地方公務員の年休権をいわゆる請求権とするか形成権その他として構成するかはむしろ立法政策上の問題とも考えられること、地公法二四条五項は「職員の勤務時間その他職員の給与以外の勤務条件を定めるに当つては、国及び他の地方公共団体の職員との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない」と規定しているところ、一般職の国家公務員の年次休暇は国家公務員法附則一六条、人事院規則一五―六によつて、所属機関の長の承認を得てはじめて休暇付与の効力を生ずるとなつていることを合わせ考えるとき、地方公務員の年次休暇につき任命権者の承認を要することを定めた休暇条例及び休暇規則中の規定は、憲法及び地公法に牴触せず、有効というべきである。なお、最高裁判所昭和四八年三月二日判決(昭和四一年(オ)第八四八号、同年(オ)第一四二〇号事件。以下三・二判決という。)はいずれも年次休暇に使用者の承認は必要でない旨判示しているが、右はいずれも公共企業体等労働関係法の適用を受ける現業公務員に関する事案であるから、一般職の地方公務員である原告らにはそのまま妥当しない。

(二) (年次休暇を争議行為に利用することは許されないことについて)

年次休暇を争議行為に利用することは許されず、この場合仮に事前の承認があつても事後これを取消すことができる。なお、事後の取消は、年次休暇を「承認」するという建前をとつていることに対応するものであるが、もともと年次休暇の争議行為への利用は年休権の行使としてはなしえないのであるから、ここに取消とは年休権が成立したものを遡つて効力を消滅させる意味のものではなく、もともと年休権が成立していないことを確認するにすぎないものである。

(1) 争議行為は、労働者が要求貫徹のため、組織的かつ一時的に使用者の労務支配から離脱して双務契約としての労働契約を一時的に不履行にして集団力により業務の正常な運営を阻害することを目的とするものであり、その間賃金を受けえないものである。これに対し、年次休暇は、労働契約が双務契約であることから労務の供給のないところには原則として賃金がないのに拘わらず、労働者が有給のままで権利として労務の供給を免れることを認めるもので、あくまでも、労使間に正常な双務契約としての労働契約が存続していることを条件とする制度である。このように、争議行為は一時的に正常な労使関係を破るものであるのに対し、年次休暇はあくまで正常な労使関係の存続を必要とするものであるから、争議行為と有給休暇は本質的に相容れないものである。労働者が年次休暇をいかなる目的に利用しようとも原則として自由であるとしても、そのことから直ちに争議行為のためにも利用できるというべきでない。

(2) 本件においては、前記のとおり、一個の使用者(企業体)である被告県と一個の組合である県職組との間に紛争があつて、組合がその目的を貫徹するために本庁を闘争拠点に指定し、そこでの争議行為を支援するため、自己の統制下にある被告県の出先機関の組合員(原告ら)に年休権を行使させ、本庁での争議行為に参加させたものである。この場合、本庁と原告らの所属部署とが別個の事業場であると仮定すれば、原告らは自己所属外の事業場の争議行為に参加しているにすぎないのではあるが、県職組は、組合としての統一体として、本庁を拠点として、使用者たる被告県の一個の事業の正常な運営を阻害するための争議行為を行つているものであるから、他事業場所属の組合員たる原告らの右争議行為への参加は、年休権の行使に名を藉りた実質上の争議行為であつて、本来の年休権の行使ではない。

(3) このように年次休暇を争議行為に利用してはならないというとき、同一企業内においては、自己の所属する事業場での争議参加と他事業場における争議参加を区別すべきではないが、仮にこの主張が容れられないとしても、次にのべるとおり本庁と原告らの所属部署とは同一事業場というべきであつて、原告らが本庁における争議行為に参加したことは、結局、年次休暇を利用して自己の所属する事業場の争議行為に参加したものといわざるを得ず、正当な年休権の行使ではない。

なお、同一事業場の認定は、<1>場所、建物が他の事業場から独立しているかどうか、<2>事業場といえるだけの規模ないし事務能力、労務管理能力をそなえているかどうか、<3>労働の態様が直近上級の事業場と一体をなし、組織的関連性の上から果して独立した事業場とみられるかどうか、<4>労基法による労使協定や意見聴取など日常の労使関係処理の場で労使が一つの事業場としての認識の上に立つてこれを取扱つてきたかどうか、の各点を基準とするのが妥当であるが、原告らの所属する中央病院、脇町土木事務所、穴吹保健所、小松島農業改良普及所及び内職相談所はいずれも独立して全ての事務を処理する権限と能力を有しないものであり、直近上位の機構としての本庁各課の指揮命令と指導を得て事務処理をするものであつて、これを右の基準に照らせば、本庁と原告ら所属の各部署は「一つの事業場」として考えるほかない。

(4) さらに、地方公務員は地公法三七条一項によつて争議行為を禁止されているから、年休権を争議行為に利用したときは、個々の労働者の権利行使は違法な争議行為に埋没して独自の法的評価を受けえないこととなり、結局本来の適正な年休権の行使はないといわざるを得ない。

(5) 三・二判決は、いわゆる一斉休暇闘争の実質は、年次休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならないから、本来の年次休暇権の行使ではなく、したがつて使用者の時季変更権の行使もありえず、一斉休暇の名の下に同盟罷業に入つた労働者の全部について賃金請求権が発生しないことを判示している。右判示は一斉休暇闘争に例をとつて年次休暇に名を藉りた同盟罷業すなわち争議行為は、年次休暇と両立しないことを判示したものである。もつとも右判決は労基法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げるか否かの判断は、当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきもの」としているが、本件のような拠点闘争の場合には、統一体としての組合が同一企業の使用者の事業の正常な運営を阻害するため一体として争議行為を行つているものであるから、これに参加した組合員は右企業内のいずれの事業場の組合員であつても年休権の行使に名を藉り所属事業場で争議行為を行なつているものと同視すべきである。

(三) 以上のとおりであるから、各所属長の承認を得た原告らの一一・一三スト当日の年次休暇について、そのうち原告らが右ストライキに参加した同日の午前八時三〇分から午前九時一〇分までの間は正当な年休権の行使ということができず、県知事が右時間に対応する部分の年次休暇は不成立であることを確認する趣旨でその承認を取消して、原告らがこの時間を欠勤したものとして扱つたことは適法である。

3  本件給料及び勤勉手当額の算出の正当性

昭和四四年一一月一三日午前八時三〇分から午前九時一〇分までを欠勤とした場合の給料及び勤勉手当額決定の計算は被告県の条例、規則によれば次のとおりであり、この計算結果に従つて被告は原告らの給料及び勤勉手当を算出の上、これを支給したものであるから、右措置に何らの違法はない。

(一) 一二月分給料

地公法二四条六項は「職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める」とし、これを受けた「職員の給与に関する条例」(昭和二七年徳島県条例第二号。以下給与条例と略称する。)一七条によれば、職員が勤務しないときは、その勤務しないことにつき任命権者(その委任を受けた者を含む。)の承認があつた場合を除くほか、その勤務しない一時間につき、同条例一八条に規定する勤務一時間当りの給与額を減額して給与を支給するものとしている。同条例一八条に規定する勤務一時間当りの給与額の計算式は別紙(二)の一記載のとおりである。なお、本件において欠勤扱いされる時間は前記のとおり四〇分間であるところ、右条例にもとづいて制定された「給料等の支給に関する規則」(昭和二七年徳島県人事委員会規則六―五。以下給与規則と略称する。)五条の四により一時間の欠勤として扱われるものである。ところで、減額されない場合に原告らの受くべき一二月分の給料月額及び一二月分暫定手当額は別紙(二)の二記載のとおりであり(調整手当は支給されていない。)、これを基準に計算すれば(別紙(二)の三参照)、原告らの一二月分給料から減じられる金額は別紙(一)の給与カツト額給料欄記載のとおりとなる。

(二) 勤勉手当

給与条例は、勤勉手当につき、六月一日及び一二月一日(基準日)にそれぞれ在職する職員に対し、基準日以前六か月以内の期間におけるその者の勤務成績に応じて支給するものとし(一一条の二第一項)、その額を基準日における給料、暫定手当及び調整手当の各月額の合計に、各任命権者が人事委員会の定める基準に従つて定める割合を乗じて得た額とし(同第二項)、給与規則は、右割合を、職員の勤務期間による割合すなわち期間率と、職員の勤務成績による割合すなれち成績率とを乗じて得た割合とする(二四条。以上を計算式化すると別紙(三)の一記載のとおりである。)。そして右期間率を基準日以前六か月以内の期間における職員の勤務期間の区分に応じて、別紙(三)の二記載のとおりとし(同規則二五条、別表一)、右勤務期間を条例の適用を受ける職員として在職した期間とする(第二六条第一項)。右計算の基礎となる原告らの基準日における給料及び暫定手当額は、別紙(二)の二記載のとおりであり、成績率は一〇〇分の六一・一九であるが、前記欠勤扱いにより、勤務期間は五か月以上六か月未満となり、期間率を一〇〇分の九〇として計算すべきこととなり、以上をもとに計算すると、原告らの勤勉手当額は別紙(三)の三記載のとおりとなり、原告らに現実に支給した勤勉手当額と一致する。

四  抗弁に対する答弁

1  (一) 1項(一)の事実中、原告らの各所属長が争議行為のために年次休暇を請求しても承認しないことを明らかにしていたこと及び本件年次休暇の承認につき取消権を留保していたことは否認するが、その余の事実は認める。

(二) 同(二)の事実中、原告らが本件年次休暇を利用して一一・一三スト支援のため本庁における職場集会に参加したことは認めるが、それにより本庁の業務及び原告ら所属部署(事業所)の業務の正常な運営が妨げられたこと又はそのおそれがあつたことは否認する。

2  2項の主張は争う。

三・二判決は、年次休暇について使用者の承認は何ら必要でなく、その利用目的も自由で他の事業場の争議行為への参加目的であつても認められること、ただいわゆる一斉休暇闘争はその実質は年次休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならないから、本来の年次休暇権の行使ではなく、したがつてこれに対しては賃金請求権は発生しないが、右は当該労働者の所属する事業場においていわゆる一斉休暇闘争が行なわれた場合についてのみ妥当しうること及び労基法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断は当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきものであること等を判示している。そして労基法三九条が原告ら地方公務員に適用のあることは地公法五八条三、四項により明らかであるから、右判示はそのまま原告らに妥当する。したがつて原告らの年次休暇について任命権者の承認は必要でなく、被告県の休暇条例及び休暇規則に「職員はすべての休暇を受けるにつきあらかじめ任命権者の承認を必要とする」旨の規定は、それが文字どおり任命権者の承認を必要とするとの趣旨であるならば、労基法に違反し無効であるものというべく、年次休暇の承認の取消なるものもそもそもあり得ない。また、原告ら所属の出先機関は場所的、機構的にみて本庁と同一事業場とは解されず、このことは原告らの所属長が従前から年次休暇の承認、不承認を当該出先機関の事業の正常な運営を阻害するかどうかによつて決している従前の運用からも明らかである。したがつて原告らが本庁の職場集会に参加したことは何ら本件年次休暇の成否に関係はなく、他に右年次休暇の成立が否定されるような理由は何もない。

3  3項の事実中、勤勉手当の算出方法及び原告ら(ただし原告北川歳市を除く。)が昭和四四年一二月五日支給された勤勉手当額並びに原告ら(ただし原告高田宏を除く。)の本来の一二月分給料月額がいずれも被告主張のとおりであることは認めるが、原告北川歳市の支給された勤勉手当額は三万二六七四円、原告高田宏の本来の一二月分給料月額は七万一四七八円である。

第三証拠<省略>

理由

一  1 請求原因1項、2項(一)の各事実及び2項(二)の事実中、県知事が本件休暇日当日又はその日から数日の間に原告らの各所属長に指示して、右休暇日のうち午前八時三〇分から午前九時一〇分までの部分について年次休暇の承認を取消させ、右時間の不就労を欠勤として扱い、原告らの昭和四四年度一二月分の本来の給料(本件年次休暇の取消による欠勤扱いがなかつた場合の給料、以下これに準ずる。)から、別紙(一)給与カツト額給料欄記載のとおりの金員を減額支給したことは当事者間に争いない。

2 被告県の一般職員の勤勉手当額は、当時基準日に受くべき本来の給料、暫定手当及び調整手当の各月額合計に期間率と成績率とを乗じて算出するものと定められていたこと(給与条例一一条の二、給与規則二四条)、昭和四四年一二月五日当時の原告高田宏を除く原告らの受くべき本来の給料月額が別紙(二)の二の同原告らの給料月額欄記載のとおりであること及び同日支給の勤勉手当については一般職員の成績率が特段の事情のない限り全員一率に一〇〇分の六一・一九と決定されていたことはいずれも当事者間に争いなく、原告らの暫定手当の月額が別紙(二)の二暫定手当欄記載のとおりであること及び調整手当は当時原告らには支給されていなかつたことは原告らにおいて明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。前記のように原告高田宏の昭和四四年一二月分の給料カツト額が当事者間に争いがないことから原告高田宏の当時の本来の給料月額が別紙(二)の二の同人給料月額欄記載のとおりであることを推認することができる。ところで、前記欠勤扱いがなければ支給対象期間皆勤であつた(この事実は被告の明らかに争わないところである。)原告らの期間率は一〇〇分の一〇〇とすべき場合であつたところ、右欠勤扱いによつて期間率を一〇〇分の九〇として計算支給されたものであることは当事者間に争いなく、前記の給料月額、暫定手当月額及び成績率を基礎とし、期間率を一〇〇分の一〇〇とした場合の勤勉手当額は別紙(三)の四計算欄記載のとおり(ただし円未満切捨。以下同じ。)であり、これに対し期間率を一〇〇分の九〇とした場合の勤勉手当額は別紙(三)の三計算欄記載のとおりであることは計算上明らかであるから、結局、原告らは、前記欠勤扱いのために、右の差額分(別表(三)の四差額欄参照)を本来の勤勉手当から減じた勤勉手当(すなわち別表(三)の三の金額)を現実に支給されたものであることが認められる。

3 原告は右勤勉手当の減額支給は違法であるとして減額分の支払を請求するところ、被告は、勤勉手当額の決定は任命権者の裁量行為であつて任命権者の支給決定により始めて確定債権として発生するものであるから、右減額分の請求は許されない旨主張するので、次に検討することとする。

勤勉手当額の算出の前提となる成績率は一〇〇分の四〇以上一〇〇分の九〇以下の範囲内で、任命権者の裁量によつて決定するものである(給与規則二八条)から、その決定のない限り勤勉手当についての確定債権は発生せずまた右決定を争うことは原則としてできないものと考えられる。しかし、期間率は給与規則で基準日における勤務期間に応じて具体的に定められており(二五条、二六条、別表第一)、任命権者には裁量の余地なく、各職員の勤務期間に応じて一義的機械的に右基準が適用されるだけであるから、昭和四四年一二月五日の支給日には、基準となる勤務期間に応じて原告らの勤勉手当請求権が確定債権として発生していたものであつて、被告が適法な年次休暇の行使を欠勤扱いとした結果、期間率の適用に差異を生じ、そのため支給勤勉手当に減額が生じたときには、右減額は違法であるから、原告らはその減額分を直接被告に対して請求できるといわねばならない。

二  以上によれば、原告らに対する本件給与等の減額支給は、いずれも原告らが年休権に基づく休暇日として就労せず、本庁における職場集会に参加した昭和四四年一一月一三日午前八時三〇分から午前九時一〇分までにつき、被告が右年次休暇の承認を取消し欠勤扱いとしたことによるものであることは明らかである。したがつて原告らが右減額分を被告に対して給与等請求債権の行使として請求できるか否かは、前記の年次休暇承認の取消及びこの取消にもとづく欠勤扱いの適否にかかつてくるので、次にこの点について検討することとする。

1  原告らが別紙(一)年次休暇の届出日時欄記載の日に所定の手続に従い、同指定休暇日欄記載のとおり休暇日(及び期間)を特定して年休権を行使したところ、原告らの各所属長がこれを承認したこと、県職組が昭和四四年度の公務員給与に関する人事院勧告の完全実施を要求する自治労全国統一行動の一環として県庁中庭において昭和四四年一一月一三日始業時間である午前八時三〇分から一時間にわたる職場集会を開くことを計画実施したこと及び原告らは前記年次休暇を利用して右職場集会(一一・一三スト)に参加したことは、いずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実に証人佐野彰平の証言により一一・一三スト当日の県庁舎出入口附近の写真であると認められる乙第一一号証ないし第一五号証、成立に争いのない乙第一ないし第五号証、証人佐野彰平、同小松十四雄の各証言、原告井上直、同岩崎繁、同北川歳市、同高田宏及び同西木秀治各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件年次休暇の承認からその取消に至るまでの経過は次のようなものであつたことが認められ、これに反する証拠はない。

(一)  昭和四四年一一月一三日当時、原告井上直は被告県の設置管理にかかる中央病院(当時の組合員数二〇〇名位)の整形外科の看護婦であつたもの、原告岩崎繁は被告県の出先機関である脇町土木出張所(当時の職員数は臨時職員を含めて八十数名)の庶務係で同事務所の金銭の支払、物品関係の仕事に当つていたもの、原告北川歳市は被告県の出先機関である穴吹保健所(当時の職員数所長以下二七名)の予防係長で、同保健所管内住民の健康管理、結核検診等の仕事を担当していたもの、原告高田宏は同様被告県の出先機関である小松島農業改良普及所(当時の職員数所長を含め一二名)の所長補佐で管内農民の農業技術や経営指導に従事していたもの、原告西木秀治は徳島県内職相談所(被告県の出先機関で、当時正規職員数三名、非常勤職員三名)事務吏員で内職のあつせん、求人開拓、調査の仕事を行なつていたもので、右原告らはいずれも県職組の執行委員の地位にあつた関係から、本庁における前記職場集会を支援するため説得(ピケ)要員として参加することとなり、一一・一三ストの数日前から前日にかけてそれぞれ各所属部署ごとに置かれてある諸届願簿に別紙(一)指定休暇日欄記載のとおり休暇日及び期間を指定記入して年休権行使の届出をなした。右届出に対し任命権者である県知事の委任を受けていた原告らの各所属長は右願簿に承認印を押捺し、或いは口頭によつて明示的に承認した者もあつたが、その外は一一・一三スト参加までに格別の異議も意思の表明もなかつたので、原告らは従前の例に従い年次休暇の承認があつたものとして、一一・一三スト当日その所属部署(いずれも被告県の統括的業務(本庁業務)が行なわれている県庁建物と別個の場所に存している出先機関であることは、前記認定及びその名称等より推認できる。)に出勤しなかつた。

(二)  一一・一三スト当日原告らは前記年次休暇を利用して本庁における職場集会支援のため午前七時ごろから県庁舎に赴き支援の総評傘下の労働組合員らとともに本庁職員に職場集会参加を呼び掛けるとともに、県庁庁舎の各入口(おおむね被告主張の各出入口)でピケ責任者としてすわりこんだり、他組合員とスクラムを組んで県庁職員及び外部から来る者の入構阻止(ただし通行証を一部の管理職に発行入構させた。)説得活動に従事した。右職場集会には四〇〇人ないし五〇〇人位の職員が参加したが、始業時間の午前八時三〇分になつても集会及びピケをとかないので、県当局はマイクを使つて職場集会中止、ピケ解除を数回警告し、さらに午前八時五〇分ごろには県総務部長名で県庁構外への退去命令が出されたが、組合員らはこれに応ぜず騒然たる状況になつた。よつて午前八時五五分ごろ予告の上、総務部長は警官隊導入を要請した。午前九時五分ごろ、機動隊が到着県庁舎正面のピケ隊を排除したため、午前九時一〇分ごろに職場集会は中止、ピケは解除となつた。なお、原告らは同日のその後の休暇時間は組合活動に従事した。

(三)  県知事は人事課の調査に基づき、同日からその二、三日後にかけて原告らの本件年次休暇のうち、同日午前八時三〇分から午前九時一〇分までの間の分は適法な年休権の行使にあたらないとして、人事課を通じて原告らの各所属長に右部分の承認の取消を電話で指示し、これに基づき各所属長は諸届願簿の原告らの当該欄にその旨記入、捺印する方法により本件年次休暇を一部取消した。

2  (年次休暇の性格とその利用目的による制限の有無)

(一)  労基法三九条の年次有給休暇制度は、憲法二五条の生存権の規定を実現するために、同二七条二項の休息権の保障を具体化したもので、それは労働者にたいし人間らしい条件での休養と生活を営むための必要最少限の休暇を与えようとするものであり、その目的を確実に実現するために、それを恩恵としてでなく労働者の権利として確定したものである。したがつて年次休暇は労基法三九条一、二項の要件が充足されたときは、当該労働者は法律上当然に右各項所定の年次休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負うのであつて、労働者の請求をまつて始めて生ずるものではなく、また同条三項にいう「請求」とは、休暇の時季にのみかかる文言であつて、その趣旨は休暇の時季の指定にほかならないと解すべきである。そして労働者がその有する休暇の始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつこれを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によつて年次休暇が成立し当該労働日における就労義務が消滅するもので、年次休暇の成立要件として労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の承認の観念を容れる余地はないものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四一年(オ)第八四八号、同年(オ)第一四二〇号、同四八年三月二日判決、民集二七巻二号一九一頁、同二一〇頁参照。)。また年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働者の自由であるが、いわゆる一斉休暇闘争の実質は、年次休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならないから、その形式のいかんにかかわらず本来の年休権の行使ではないから、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえず、一斉休暇の名の下に同盟罷業に入つた労働者の全部について賃金請求権が発生しないこと、しかし右は当該労働者の所属する事業場においていわゆる一斉休暇闘争が行なわれた場合についてのみ妥当しうることであり、他の事業場における争議行為等に休暇中の労働者が参加したか否かはなんら当該年次休暇の成否に影響しないこと、労基法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断は、当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきことは、いずれも右判決の説くところである。

よつて当裁判所も右判示の趣旨に従つて以下いかなる場合に労働者の時季指定が年次休暇としての成立を否定され、或いは年休権の行使として就労しなかつた休暇日が年次休暇としての効果を否認されるかを(前者は主として事前の判断、後者は事後の判断にかかわる。)検討することとする。三・二判決は<1>労働者の適法な年次休暇の時季指定があつたときでも客観的に労基法三九条三項但書所定の事由(その判断は当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきことは勿論である。)が存在し、かつこれを理由として使用者が時季変更権を行使した場合は、年次休暇は成立しないこと<2>当該労働者の所属する事業場においていわゆる一斉休暇闘争が行なわれた場合は本来の年休権の行使にあたらないから、年次休暇としての効果を否認できること(したがつてそのような年次休暇は仮に事前に時季変更権を行使していなかつたとしても、適法な年休権の行使にあたらないとし取扱うことができるものと考えられる。)を判示している。しかし右以外に<3>時季指定者に対する年休付与により事業の正常な運営を阻害する客観的状態が発生するか否かの判断に必要な時間的余裕をあたえない時季指定等、使用者の適法な時季変更権の行使を不可能ないし困難ならしめるような時季指定ないしは使用者の適法な時季変更権の行使を無視して年休権を行使することが、その目的、態様から予定されているような年休権の行使は、その成立ないし効果を否認できるものと解するのが相当である。けだし、前記<2>は使用者が適法に時季変更権を行使しても争議行為として一斉休暇届を出した労働者がそれに応じて年次休暇をとるのを他の時季に変更して「事業の正常な運営を妨げ」ない限度でのみ年次休暇をとるようにすることは、一斉休暇闘争の性格からしてあり得ないとの観点から、立論されたと考えるからである。被告は三・二判決は年次休暇に名を藉りた同盟罷業=争議行為は年次休暇と両立しない旨判示したものと主張するが、その言うところが年次休暇を何らかの争議行為に利用し又は利用する目的で年休権を行使した場合には、年次休暇としての効果を否認さるべきであるとの趣旨であれば、明らかに判示と背馳する。結局具体的年次休暇の成立ないし効果が否認できるのは、「当該事業場の業務の正常な運営を妨げる」客観的事情があり、それを理由として時季変更権を行使した場合と年次休暇の請求または行使が濫用である場合ないし使用者の時季変更権の行使を無意義ならしめる態様のものであること(いわば年休権行使のわくを外れたもの)に限られるべく、それは当該事業場の業務阻害の有無と時季変更権の観点からのみ判断すべくその利用目的ないし利用状況そのものから直ちに決すべきではないとするのが三・二判決の趣旨であると考える。

(二)  (地方公務員に対する年次休暇権の適用)

労基法三九条が一般職の地方公務員に適用されることは、地公法五八条三項により明らかである。したがつて、原告ら地方公務員の年次休暇の成立要件として労働者による「休暇の請求」やこれに対する使用者(任命権者)の「承認」という観念を入れる余地はない。被告県の休暇条例六条三項、四項、八条、休暇規則四条一項別表一、五条によれば、被告県の職員が年次休暇を受けようとするときは、あらかじめ任命権者の承認を得なければならないと定められているが、条例及び規則は法律の下級規範たる性質をもつものであるから、労基法の規定に反する内容を定めてもこれは無効であるから、仮に右承認規定が文字通り承認がなければ年次休暇は成立しないとしか解釈できないときは無効といわざるを得ない。したがつて右規定は年次休暇をとる場合には任命権者に手続として届出をなすことを要する乃至は任命権者に時季変更権のあることを改めて規定したにすぎないと限定的に解釈すべきである。地方公共団体が年次休暇に承認制を設けるのは、国家公務員に承認制が採用され(国家公務員法一六条、人事院規則一五―六)、これと「権衡を失しないように」配慮したものと思われるが(地公法二四条五項)、法文上は国家公務員には労基法の適用が認められていないのであるから「権衡」を考慮する必要はない(なお、国家公務員についても、その承認は労基法三九条の趣旨に則り覊束された承認と解すべきであろう。)。

3  ところで、原告らの本件年次休暇の請求(時季指定)に対し、被告が適法な時季変更権を行使したとの主張立証はなく、かえつて右請求に対し各所属長が承認を与えた(右承認は時季変更権を行使しない旨の意思表明と解するのが相当である。)ことは当事者間に争いがないから、本件被告の主張は適法な時季変更権を行使したというのではなく本件年次休暇の行使はそもそも年次休暇制度のわくを外れたもので、適法な年休権の行使にあたらないものとの趣旨と解せられる。もつとも被告は取消権を留保して承認した旨主張し、成立に争いのない甲第四号証の四、証人佐野彰平の証言によれば、一一・一三ストに先立つ昭和四四年一一月一〇日ごろ被告県の総務部長名で各出先機関の長等に対し右争議行為当日の年次休暇を承認する際には、争議行為に参加したことが明らかとなつたときは、承認を取消すことを通告するよう通達が出されていることが認められる(ただし原告らに対し承認の際、個々的にその旨明示したと認めるに足る証拠はない。)が、承認(時季変更権不行使の意思表明)にそのような条件をつけるのは、年次休暇の性格から許されず、そのような条件を付してなくても年次休暇の行使が不適法であればその効果を事後に否認できるとともに、そのような条件を付していてもその条件に該当する事実があつたとの一事をもつて年次休暇承認の取消(年次休暇の効果の否認)ができるものではないから、以下原告らの本件年次休暇の行使が有給休暇としての効果を否認さるべき場合にあたるか否かについて前記1の認定及び同2に考察した年次休暇の性格を総合して検討することとする。

(一)  原告らは、その使用者である被告県の出先機関等の職員で、本庁を拠点とする一一・一三スト支援のためこれに参加したものであるが、前記認定によれば右一一・一三ストにより本庁業務の正常な運営が一時的にもせよ阻害されたことは明らかである。そこで右業務阻害が原告ら所属の事業場の「事業の正常な運営を妨げる」場合にあたるか否か、さらには当該事業場の所属長の時季変更権を無意義ならしめる態様の年休権の行使換言すれば年休権の行使に名を藉りた争議行為として年休制度のわくを外れた不適法なものであるか否かが問題となる。けだし、労働関係の当事者がその主張を貫徹する目的で行なう行為で、業務の正常な運営を阻害する行為が争議行為と解せられるから、当該事業場における争議行為に年次休暇を利用することは、争議行為の性質から一般的にいつて使用者の時季変更権を無視し、これと相容れないものというべきであるからである。

(二)  そこで、本庁と原告らの各所属部署とが同一事業場であるかについて考察を進めるが、原告岩崎繁所属の脇町土木事務所、原告北川歳市所属の穴吹保健所、原告高田宏所有の小松島農業改良普及所及び原告西木秀治所属の内職相談所はいずれも本庁の関連部課と相互に連絡をとり、その指示命令の下に業務を行つていることは、証人佐野彰平の証言により明らかである(原告井上直所属の中央病院はその業務の性質上本庁の担当課の一般的な監督を受けるが、一応その業務は独立していることが推認せられる。)。しかしながら、一企業において、本店が支店と連絡をとり或いはこれを指揮命令して業務を行うということは一般に行なわれているものであり、右のような抽象的な指示命令関係があるというだけで本店と支店とが同一事業場であると判断すべきでないことは当然である。年休権行使の許否を判断する単位としての事業場概念を考える場合は、その職場において相関連して一体をなす労働の態様が他の職場に対し一応の独自性をもつか否かを考慮すべきであり、事業目的の独立性、場所及び建物の独立、事務処理能力、職員数などの諸要素を総合して判断すべきであるが、前記認定のとおり原告らの各所属部署の所在場所及び建物は本庁から分離独立しており、その事業目的に一応の独自性が存在すること、年次休暇の承認(時季変更権不行使の意思表明)は、当該事業場の「事業の平常な運営を妨げる」か否かの観点からなされることは、労基法三九条により明らかであるところ、原告らの任命権者である県知事は各所属長に年次休暇の承認の権限を委託していることを総合すれば、本庁と原告らの各所属部署とは別個の事業場であると認めるのが相当である。

(三)  したがつて一一・一三ストは本庁業務を阻害したにとどまり、原告ら所属の各事業場の業務を阻害したことにはあたらない。被告は抽象的な指揮命令関係の存在を以て本庁業務の阻害は所属事業場の業務阻害と同一視すべきであると主張するものの如くであるが、その然らざることは三・二判決の趣旨より明らかである。他に原告らが本件年次休暇の行使により所属事業場の「事業の正常な運営を妨げ」たとか、そのような目的で所属事業場の争議行為に参加したと認めるに足る証拠はない。もつとも証人佐野彰平の証言、原告井上直本人尋問の結果によれば原告井上直所属の中央病院においては、本庁の職場集会とは別個に、一一・一三スト当日の午前八時三〇分から約一時間にわたり、同病院勤務の県職組組合員約一〇〇名が職場を離れ、病院近くの旅館において職場集会を開いたこと、右集会の参加者は年次休暇をとつていなかつたことが認められるが、原告井上直は、右職場集会に参加したものではなく年次休暇の手続をとつて県庁における一一・一三ストに参加したものであるから、自己の所属事業場の業務阻害をきたす争議行為に参加したものでないことは明らかである。

(四)  原告は、地方公務員たる原告らの一一・一三ストへの参加は、地公法三七条一項の争議行為禁止に違反する違法行為であるから、原告らの個々の年休権の行使は、争議行為という集団的な違法行為に埋没してしまい、年次休暇は成立しない旨主張するが、前記のとおり、年次休暇の利用方法の問題は年次休暇制とは別の次元においてその違法合法を検討すれば足りるのであつて、年次休暇を違法な行為に利用したことにより、懲戒若しくは刑罰等の対象として問疑される場合のあることは別個の問題で、年次休暇の成否に何ら影響するところがない。

4  右のとおり、原告らが年次休暇を利用して本庁における一一・一三ストに参加したことは、当日の原告らの年次休暇の成立を妨げるものではない。したがつて、県知事が、争議行為への利用を理由に原告らの右年次休暇の一部を欠勤扱いし、給与を減額して支給し、本来適用されるべき期間率より低い期間率をもつて計算して勤勉手当を支給した行為は違法であり、右減額及び差額分の給与等の支払並びにこれに対する弁済期後で訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四六年一一月七日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告らの請求は理由がある。なお、右給与等カツト額合計は別紙(一)減額給料欄及び別紙(三)の四差額欄記載のとおりであり、その合計額は、原告井上直が金二三一七円、原告岩崎繁が金一七〇四円、原告北川歳市が金四三三七円、原告高田宏が金四七〇八円及び原告西木秀治が金三八三一円となる。

三  (国家賠償法にもとづく慰藉料請求)

1  県知事が年次休暇を争議行為に利用することは許されないとの見解に立つて、給与等の減額支給をした行為は、前記のとおり違法行為であるが、公務員が法令解釈の分かれている事項について、そのうちの一説を採用して行政上の行為を行なつたところ、後にこれが違法と判断されたときに、法令解釈の相違によるものとしてつねに過失なしとするのは妥当でなく、かえつて、違法行為がある以上一応の過失の推定をなすべきである。しかしながら年次休暇については、昭和四四年当時には、その性質及び利用目的に関し、極めて多様な学説が存在し、その中には、年次休暇の成立又は行使に使用者の承諾が必要であり、年次休暇を争議行為に利用することは許されず、争議行為に利用されたときは事前に承認があつても事後これを取消すことができるとの説が存在し、県知事はこの説に従つて前記諸措置をとつたことが推認されること、当時理論構成は必ずしもこれと同じでなくともこれと同様の結論を示す判決例も少なからず存在していたこと、また原本の存在及び成立に争いない甲第四号証の一、二によれば、自治事務次官から県知事あてに、一一・一三ストに対してあらかじめ適切な処置をとるように指示がなされていたことを認めることができ、これらを総合して判断すれば、県知事が前記違法行為をしたことは、当時としてはやむを得ないものがあるから、未だ県知事に過失があつたものとはいい難い。

2  さらにまた、原告井上直、同岩崎繁、同北川歳市、同高田宏及び同西木秀治の各本人尋問の結果を総合すれば、県知事の前記違法行為の結果、原告らが自己の勤務成績評価の上で不利益な判断を受けるかもわからないとの不安を持ち、また組合活動上に困難を生じて精神的苦痛を被つたことを認定できないでもないが、これらの精神上の苦痛は、本件訴訟において県知事の行為の違法性が明らかにされたということを前提に前記減額及び差額分の支給を受けることによつて、おのずと慰藉されうるものと認むべきであり、他に減額分の支給を受けただけでは回復し難い精神上の損害を原告らが被むつていたと認定するに足る証拠はない。

3  したがつて、その余の点について判断するまでもなく、原告らの国家賠償法一条一項にもとづいて金五万円の支払いを求める慰藉料請求は理由がないものといわねばならない。

四  以上のとおり、原告らの本訴請求は、原告井上直が金二三一七円、同岩崎繁が金一七〇四円、同北川歳市が金四三三七円、同高田宏が金四七〇八円及び同西木秀治が金三八三一円並びにこれらに対して昭和四六年一一月七日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 早井博昭 横田勝年 富田守勝)

別紙(一)

原告氏名

所属部署

年次休暇

給与カツト額

届出日時

指定休暇日

給料(円)

勤勉手当(円)

井上直

中央病院整形外科看護婦

一二日(午前)

一三日(一日中)

一八二

二、一三四

岩崎繁

脇町土木事務所庶務係

一二日(午前)

一三日(A8.30~PO.30)

一三四

二、七六八

北川歳市

穴吹保健所事務吏員

一〇日(午前)

一三日(A8.30~PO.15)

三四二

六、九三六

高田宏

小松島農業改良普及所技術吏員

四日(午前)

一三日(一日中)

三七一

七、六〇五

西木秀治

内職相談所事務吏員

一二日(午前)

一三日(午前中)

三〇二

六、一四八

1 年次休暇の届出日及び指定休暇日は昭和四四年一一月中のものである。

2 給与カツト額は、昭和四四年一二月分給料及び同年一二月五日支払いの勤勉手当について、原告が主張する額である。

別紙(二)

一 職員の給与に関する条例(昭和二七年徳島県条例第二号)第一八条による勤務一時間当りの給与の計算式

1時間分の給与=(給料月額+暫定手当の月額+調整手当の月額)×12月/44時間×52週

二 本来の原告らの一二月分給料及び一二月分暫定手当(調整手当の支給はない。)

原告氏名

給料月額(円)

暫定手当(円)

井上直

三四、六〇八

二七二

岩崎繁

二五、四七〇

一八〇

北川歳市

六四、七三四

五五六

高田宏

七〇、二八八

五九二

西木秀治

五七、一六二

五〇八

三 右二を右一にあてはめて計算したもの(欠勤一時間による給料カツト額)

原告氏名

計算(円)

井上直

(34.608+272)×12/(44×52)=182

岩崎繁

(25.470+180)×12/(44×52)=134

北川歳市

(64.734+556)×12/(44×52)=342

高田宏

(70.288+592)×12/(44×52)=371

西木秀治

(57.162+508)×12/(44×52)=302

別紙(三)

一 勤勉手当額の計算式

支給額=(給料月額+暫定手当の月額+調整手当の月額)×(期間率×成績率)

二 勤務期間の区分に応じた期間率

勤務期間

期間率

六か月

百分の百

五か月以上六か月未満

百分の九〇

四か月以上五か月未満

百分の八〇

三か月以上四か月未満

百分の七〇

二か月以上三か月未満

百分の六〇

一か月以上二か月未満

百分の五〇

一か月未満

百分の四〇

三 期間率を一〇〇分の九〇とした場合の原告らの勤勉手当額の計算(基礎となる給料及び暫定手当の額は別紙(二)の二記載のとおり。成績率は一〇〇分の六一・一九)

原告氏名

計算(円)

井上直

(34.608+272)×(90/100×61.17/100)=19.208

岩崎繁

(25.470+180)×(90/100×61.19/100)=14.125

北川歳市

(64.734+556)×(90/100×61.19/100)=35.955

高田宏

(70.288+592)×(90/100×61.19/100)=39.034

西木秀治

(57.162+508)×(90/100×61.19/100)=31.759

四 期間率を一〇〇分の一〇〇とした場合の原告らの勤勉手当額の計算(末尾の差額欄の数額は、期間率を一〇〇分の九〇として計算した場合との差額)

原告氏名

計算(円)

差額(円)

井上直

(34.608+272)×(100/100×61.19/100)=21.343

2.135

岩崎繁

(25.470+180)×(100/100×61.19/100)=15.695

1.570

北川歳市

(64.734+556)×(100/100×61.19/100)=39.950

3.995

高田宏

(70.288+592)×(100/100×61.19/100)=43.371

4.377

西木秀治

(57.162+508)×(100/100×61.19/100)=35.288

3.529

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